「所有者不明土地」対策に関する法改正
2021.05.31役立つ法律知識
弁護士の倉橋です。
最近よく耳にする「所有者不明土地」問題の対策として、2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定され、同年4月21日の参議院本会議で成立しました。改正法は2024年度に施行される予定です。
今日はこの改正に至った経緯と改正された制度についてお話します。
1.「所有者不明土地」対策の経緯
「所有者不明土地」というのは、国土交通省によれば「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」と定義されています。
簡単に言いますと、登記簿に正確な情報が反映されていない土地ということです。
このような土地が発生する一番の理由としては、相続登記がされないケースが多いためと考えられています。現状では相続登記は義務ではないので、手間や登記費用の出費を嫌ったり、遺産分割協議が面倒、法定相続人間の話し合いがまとまらないなどの理由で登記されないまま放置されるケースが多くなっています。
「所有者不明土地」のため所有者の確認ができず、国や自治体のみならず民間にとっても、国土、不動産の有効利用を妨げられるという弊害が生じています。
所有者の情報を登記簿に正確に反映させ、連絡をとれるようにするための方策として、先に述べました民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)により、①相続登記の義務化、②住所変更登記の義務化、③所有者情報など連絡先の把握の3点が決められました。
他方で、登記義務者が円滑に登記手続を行えるよう、①遺産分割協議における特別受益と寄与分の期限の新設、②土地所有権放棄の制度なども設けられました。
2.法律により義務化されたこと
(1)①相続登記の義務化
不動産の所有者について相続があったときは、相続により不動産の所有権を取得した者は、相続の開始及び所 有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の名義変更登記をしなければなりません。これに違反すると10万円以下の過料の対象となります。これは、遺言などの遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も同様です。
この相続登記義務化は、法改正後に発生した相続のみならず、法改正以前から相続登記をしていない不動産についても適用があります。
(2)②住所変更登記の義務化
登記上の所有者の住所・氏名・名称変更についても義務化されます。具体的には、所有者の氏名、住所、名称について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければなりません。これに違反すると5万円以下の過料の対象となります。
この住所等の変更登記義務化は相続登記義務化と同様に法改正後に発生した住所等の変更のみならず、法改正以前から住所等の変更登記をしていない不動産についても適用があります。
(3)③所有者情報など連絡先の把握
新たに不動産の所有権を取得する個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が義務化されます。
個人の生年月日は登記簿には記録されませんが、法務局内部において登記官は、氏名、住所、生年月日などの情報を元に住民基本台帳ネットワークシステムに定期的に照会及び検索用のキーワードとして利用される予定です。
3.円滑な登記手続きのために新設された制度
(1)①遺産分割協議における特別受益と寄与分の期限の新設
具体的には、特別受益による贈与及び寄与分については、改正後は相続開始から10年間経過すると主張することができなくなります。
(2)②土地所有権放棄の制度
一定の条件付で土地所有権を放棄し国庫に帰属させる制度が定められることになりました。
ただ、この制度は例外なので、法務大臣に対し承認を求めることが「できる」ということで、共有の場合は全員で一斉に行う必要があり、申請料も掛かります。
承認される条件としては、例えば、建物のない更地や担保権などの負担のない土地、土壌汚染がなく、境界が明らかといったものです。つまり、国が利用する際に妨げになるものが付いていない土地だけを考えており、ハードルは結構高いものとなっております。
承認された際には、その管理に要する負担金を納付しなければならず、その金額は固定資産税の10年分と言われています
何世代も前の不動産の処分についてご相談を受けることがございますが、今後の対応としては上記の法改正を十分に理解し活用することが必要となってくると思います。
今述べさせて頂いた他にも、様々な制度が新設されますので、相続登記でお困りの場合には、弁護士にご相談下さい。